書評

マツコの何が”デラックス”か?

マツコの何が”デラックス”か?

テレビで観ない日はないくらいよく見かける

「マツコ・デラックス」

ズバッと言い切る気持ちよさ、時には情が厚く涙もろいところもあり、「次はどんなことを言うんだろう」と期待してしまいます。どういった背景で「マツコ・デラックス」は現在に至っているのか、とても興味深く読みました。

マツコの何が”デラックス”か?/太田省一

  • 出版社 : 朝日新聞出版 
  • 発売日 : 2018/3/20

フォルムもインパクト大。知識の豊富さ、テンポの良い話し方。とにかく惹きつけられる。魅力満載で、気になりすぎ。人生で迷ったら、マツコ・デラックスに相談したいと思うのは、私だけではないはずです。

【序 章】 なぜマツコだけが、“デラックス”か?
【第1章】マツコ、懐かしむ マツコの“時代感覚”がデラックス!
【第2章】マツコ、彷(さま)徨(よ)う マツコの“心”がデラックス!
【第3章】マツコ、吠える マツコの“怒り”がデラックス!
【第4章】マツコ、食べる マツコの“食いっぷり”がデラックス!
【第5章】マツコ、妄想する マツコの“想像”がデラックス!
【第6章】マツコ、推す マツコの“愛”がデラックス!
【第7章】マツコ、コメントする マツコの“視点”がデラックス!
【第8章】マツコ、演じる マツコの“演技”がデラックス!
【第9章】マツコ、装う マツコの“女装”がデラックス!
【終 章】 だからマツコは“デラックス”

「デラックス」にふさわしいマツコ・デラックスだが、もしかしたら、「デラックス」ではなかったかもしれない。命名候補は他にもあったようで、「インターナショナル」「ロワイヤル」「ユニバーサル」が挙げられていた。

マツコは欲望に対して人並み以上に正直な人。欲望を満たすことが、ほかのなによりも優先する。何かに駆り立てる原動力になる。と、同時に冷静さを失わせ迷路に誘い込みもする。マツコの「コンビニ放浪の旅」では彷徨い、目的を果たそうとする、”どうしてもこれが食べたい”、という気持ちが抑えられなくなる気持ちに共感する人も多いだろう。

マツコは妄想の世界を俯瞰的に見下ろし、司るようなところにいる。言うならば、超越的な神、造物王のようなポジションにいる。

マツコは、妄想の中で別の人生を生きている。もちろんそれは非現実の世界でのこと。しかしその妄想は、その瞬間はとてもリアルなのである。そんなマツコの姿を見ていると、人には現実逃避する権利、妄想する権利があるのだと思えてくる。現実逃避をそれだけでネガティブにとらえる必要はない。誰にも人生において幸福になる権利があるのならば、妄想もまたその一部と言えはしないか。

私たちの多くは、周囲の視線など気にしない生き方に憧れながらも、そうできない自分にもどかしさを感じている。そんな中途半端な自分は、あまり認めたいものではない。ところがマツコは、自分の生き方の中途半端さを正面から見据え、引き受ける。私たちはその姿に一種の救いを感じ、強い共感を覚えるのではないだろうか。

マツコ・デラックスを観ていると安心する気がします。もっと素直でそのままの姿でいても良い、自由に発言して良いんだと。ただ、マツコがここまでの地位を確立してきた歴史は苦労も想像できないほどあったはず。そこをも覚悟しての現在だから、マツコはマツコ・デラックスであって、美しい。さて、自分には同じほどの覚悟があるのだろうか?と思ったらまた自信喪失になるけど。でも、そうやって人は少しずつ成長していくのだと思います。